Resorttrust Rescuiting

阿部総支配人インタビュー
#SPECIAL 06

数々のホテルで、コンシェルジュとして
最上のサービスを提供してきた阿部 泰年さん。
現在はザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜の総支配人として
ホテルをまとめ上げています。
長年勤めてきたコンシェルジュ職について抱く熱い思いや、
ホテルで働く魅力について伺いました。

profile
ザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜
総支配人
阿部 泰年さん

1997年4月に横浜の外資系リゾートホテルに入社。いくつものホテルでコンシェルジュとしてキャリアを高め、2015年4月Les Clefs d’Or Japan(レ・クレドール)のメンバーに承認。2019年7月日本コンシェルジュ協会会長に就任。
2019年4月リゾートトラストに入社。ゲストリレーション部長としてザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜の開業準備に携わり、2021年より総支配人となる。

どんな願いでもかなえる魔法使い、
コンシェルジュ
阿部泰年さん
「コンシェルジュ」という仕事につい
て教えてください。

コンシェルジュとは何をする仕事だと思いますか?
『法的や道徳的に反しない事は何でもやる。』それがコンシェルジュという仕事です。
例えば、「今日のディナーをどこで食べようか」と思った時、多くの人はネットで検索をしますよね。3秒と待たずに、エリア内の人気レストランや料金体系まで、どんなことでも分かります。
しかし、コンシェルジュは、インターネットやガイドブックの情報をそのままお客さまに伝えることはしません。コンシェルジュとしては、大切なお客さまの大切なディナーを、自分の知らないお店に委ねることが心配でたまらないからです。必ず自分が利用したことがあり、料理もサービスも知り尽くした上で、自信を持ってご紹介できるお店をお伝えします。
「このレストランには、私も1週間前に行ったんです。こんなシェフ、こんなサービススタッフがいて、こんなメニューがあります。この料理を食べた時、私は衝撃を受けました。今、人生の最後に食べたいものは何かと聞かれたらこの料理だと答えるでしょう。この感動をMr.にも味わってほしいです。ぜひ行ってみてください」というように。

阿部泰年さん
コンシェルジュに求められることは
何ですか?

コンシェルジュはホテルの中で最もホスピタリティ精神の強い人間でなくてはなりません。ホテル内外の方と幅広いネットワークを持ち、他の誰にもかなえられないリクエストを実現する。コンシェルジュは、サービスの「最後の砦」とも呼べる存在だと思っています。もちろん、何でも知っていて、何でもできる万能な人はいません。コンシェルジュも、自分が知らないリクエストを受けた時は、全国にいるコンシェルジュ仲間に問い合わせることで、信頼できる情報を得ています。私が一時期会長を務めていた「日本コンシェルジュ協会」は、まさに全国の一流のコンシェルジュが集まるネットワークです。
また、私は世界トップクラスのコンシェルジュが集う「レ・クレドール」の会員でもありました。その証が、ゴールデンキーの襟章です。この襟章を付けられることは、私にとって誇りであると同時に、「お客さまに中途半端なサービスはできない」という決意そのものでした。どんなリクエストを受けてもノーとは言わない。お客さまの望みを何でもかなえられる“魔法使い”でなくてはならないという覚悟を持って、お客さまに向き合ってきたのです。

阿部泰年さん
実際に、どのようなお客さまの望みを
かなえてきたのか、
阿部さんのご経験を教えてください。

これまでの思い出深いエピソードはいくらでもあります。例えば、お客さまが望むことが無理難題に思えることだったとしても、それをやり遂げた時の達成感は格別です。お客さまのご要望で人気のテーマパークを貸し切ったこともありますし、6名貸切の高級寿司屋に、自身のホテルから椅子とお皿を持って行き、8名の寿司屋にコーディネートした事もあります。寿司屋の件は一度は断られましたが、「やりたいんです。」と、お客さまへの思いを誠心誠意お伝えしました。この時、リクエストを受け入れる側にとっても良いオファーであると感じていただけるコーディネートをするのが、コンシェルジュの腕の見せ所です。

たった一人のお客さまのために某有名テーマパークを貸し切りに。そんな仕事ができるのは、阿部さんがこの仕事に並々ならぬ思いをお持ちだからこそですね。

どれだけ多くの人を喜ばせることができたか。それが自分の存在価値だと思っています。自分の人生の価値は、きっと人生の最後に分かるのではないでしょうか。いつの日か、自分が死ぬ時に「これだけお客さまに喜んでいただくことができた。あんな喜びのお声もいただいた。やることはやったな」と思えるはず。そう思って仕事に取り組んできました。
もちろん楽しいことやうまくいくことばかりではなく、いまだに上司から怒られることはたくさんあります。まだまだホテルで働く者としてひよっこだと痛感しますし、「自分には向いていない仕事だな」と下を向いてしまう瞬間が毎日あります。それでもやはり、私はお客さまの最高の笑顔を見られるホテルの仕事を愛していて、この仕事を選んで良かったと心から思うのです。

阿部泰年さん
自分の天職に出会った喜び。
一流のホテリエを目指してひたすら走り続けてきた
阿部泰年さん
阿部さんは、どうしてホテルで働く道を
選んだのですか?

就職活動の際に考えたのは「一生の仕事は楽しくて熱中できるものを選びたい」、そして「業界で一流になりたい」ということです。私は、自分に何かをしてもらうより、相手に何かをしてあげる喜びが圧倒的に大きい性格です。例えば、友達の誕生日には、相手が喜びそうなプレゼントをこっそり準備してサプライズでお祝い。相手が喜ぶ姿を見た時は、本当に嬉しい気持ちになるんですよね。それを仕事にできたら毎日楽しいだろうと考え、サービス業に進むことにしました。

中でもホテルを選んだのは、一番クオリティの高いサービスを学べる場所だと考えたからです。まず、ホテル自体が、とてもすてきな場所ですよね。誕生日や結婚記念日、金婚式などのスペシャルオケージョンには、多くのお客さまがホテルを選んでくださいます。一生に一度のプロポーズの場所に自分が働くホテルを選んでいただけるなんて、本当にありがたいことですし、感動してしまいます。利用いただくお客さまの数だけドラマが生まれる場所、それがホテル。そして、そのドラマをハッピーエンドにするお手伝いをすることが、私たちホテリエの仕事なのです。また、ホテルが他のサービス業と違うのは、お客さまと「衣食住」を共にするということ。まるで家族のように、生活の全てのシーンでお客さまをおもてなしできる素晴しい仕事だと思っています。

コンシェルジュという仕事を選んだ
きっかけも教えてください。

新卒で外資系のホテルに勤め始めた時はドアマンとして働いており、コンシェルジュについては何も知りませんでした。
ある時、自分のホテルのチーフコンシェルジュが、隣のホテルのチーフコンシェルジュとロビーで親しげに話しているのを見て、驚いたんです。その時の私は、隣のホテルをライバルだと思っていました。チーフコンシェルジュにそう話すと、彼が「阿部くん、私たちは、自分のホテルだけが良ければいいという考え方は持っていないんだよ。ホテルの垣根を超えて、お客さまをおもてなしするレ・クレドールの仲間なんだ」と教えてくれたのです。その言葉に衝撃を受け、「自分はなんて視野が狭かったんだ」と反省したことを覚えています。とはいえ、その時はまだ、自分がコンシェルジュになるとは思っていませんでした。

転機が訪れたのは、その後別のホテルに移ってからのこと。そのホテルのアシスタントチーフコンシェルジュから「助けてくれないか」と言われたんです。「一緒に働かない?」ではなく、「助けてくれないか」でした。その言葉にとても重みを感じて、この人の助けになりたいと感じ、コンシェルジュになろうと決めました。それからの日々は、24時間365日、どこで何をしていても、お客さまへのサービスにつなげることを考えてきました。特に30代前半の頃は、自分でも「俺はおかしくなったのかな」と思ってしまうくらい、コンシェルジュとして成長することだけを考え続けてきましたね。

阿部泰年さん
コンシェルジュの地位を高める夢を、
リゾートトラストで実現
阿部泰年さん
リゾートトラストで、コンシェルジュとして
成し遂げたいことはなんですか?

コンシェルジュという仕事の格式を高めることです。海外と違って、日本では一般的にコンシェルジュとして部長以上の役職がありません。コンシェルジュを志す方が増えている今、結婚し、子供を持ってからもコンシェルジュとしてキャリアアップ・給与アップを続けられるように、道を切り拓くことが今の私の使命だと考えています。そこで、私がリゾートトラストに入社する際に、「ディレクターオブコンシェルジュ」という新しい役職をつくっていただきました。一般的にいう「部長職」。コンシェルジュとしてのキャリアアップの道をつくりたかったからです。

また、日本におけるコンシェルジュの認知度や、コンシェルジュ自身のレベルも高めていきたいと考えています。私が総支配人を務めるザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜は、会員制ではないラグジュアリーホテルとして、ハワイ州オアフ島にある名門ホテル「ザ・カハラ・ホテル&リゾート」のブランドを冠しており、当社の他のホテルと違って、外国からのお客さまを半分以上に見込んでいます。外国のお客さまは、日本のお客さまに比べて、ホテルでコンシェルジュをどう活用するかをよくご存じです。そのようなお客さまへのおもてなしをたくさん経験することは、当社のコンシェルジュのレベルの向上にもつながるでしょう。日本人のお客さまには、積極的に「今日のご夕食はどうされますか。よろしければ予約をお取りします」など私たちからお声がけをし、「今後もご滞在中にお困りごとがあれば、コンシェルジュを頼ってください」と名刺をお渡ししています。地道ですが、こうして認知度の向上も図っていくつもりです。

しかし、阿部さん自身は現在コンシェル
ジュではいらっしゃらないとか。

はい。昨年、ザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜の総支配人に着任した際に、私はコンシェルジュではなくなり、ゴールデンキーを外しました。日本コンシェルジュ協会のメンバーでもなくなりました。コンシェルジュでなくなることが決まった時は、泣きました。本当にこの仕事を愛してきましたから。しかし、ザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜の総支配人という職は、なかなか経験できることではありません。それだけの重要なポジションを私に任せてくださったリゾートトラストの期待に応えたいという思いでいっぱいでした。何より私には、コンシェルジュの格式を高めたいという夢があります。コンシェルジュを極めた先には総支配人にもなれるのだと、後輩のために道筋を作りたい。その志のために今は総支配人の役職に尽力しています。

最後に、この記事を読んでいるホテルの
世界を志す学生へ、メッセージをお願い
します。

日本のコンシェルジュはまだ歴史が浅く、レ・クレドールジャパンが誕生してから25年しか経っていません。日本のコンシェルジュの歴史はまだまだこれから。しかし、日本のコンシェルジュのきめ細かなサービスは、世界に誇れるもので、ヨーロッパのサービスレベルよりも高いと自負しています。こんなに楽しい仕事はない、といつでも誰にでも誇りを持って言えます。皆さんもぜひ、自身の仕事が最高だと胸を張って言えるよう、仕事を愛し、一流を目指して取り組んでいただければと思っています。人生を懸けて人を喜ばせたいと思っている人、サービス業を志す人は、ぜひホテルに来て、私たちと共に働きましょう。

阿部泰年さん